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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(オ)15号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士金子新一の上告理由について。

原審は本件仮処分の取消については次の如き特別事情があると判断した、即ち(一)本件仮処分によつて保全される権利が本件宅地に対する占有の妨害排除請求権であるから金銭的補償によつてその終局の目的を達し得るものである、(二)被上告人は昭和二一年七月中旬高木保昌(本件宅地の所有者)から被上告人主張のような約旨で本件宅地を賃借し同時に辻栄三郎と店舗建設について被上告人主張のような請負契約を結び次いで同年八月一〇日大阪府から建築許可を受けたので右辻は整地工事を終り金一万二千円余の建築材料を買入れ建築に着手するばかりになつていたところ本件仮処分によつて建築を差止められ工事を進行することができなくなつた、そしてこのままで放置すれば一方では前に得た建築許可を取消されるかも知れず時節柄貴重な建築資料が腐朽する恐れがあるばかりでなく被上告人は請負契約における特約によつて辻に多額の損害賠償をしなければならなくなり他方では被上告人は店舗の開設ができないために営業上の利益を失うことになり莫大の損害をこうむる事実が疏明されたものと認めるから被上告人は本件仮処分によつて通常よりはるかに大きい損害を受けるものである、而して論旨は右(二)の特別事情に関する攻撃であるが上告人は原審において被上告人と高木保昌との賃貸借はその地代額が統制法規に違反する無効の契約であるから被上告人は本件仮処分について特別事情ありとして保護を受けるに値えしないと主張したに拘わらず原審が論旨指摘の如く判示し右の点につき判断するところなく上告人の主張を排斥したのは民訴第七五九条にいわゆる特別事情の解釈を誤つたものであるというのである。

しかし特別事情に基づく仮処分の取消申立事件においては仮処分債務者に特別事情があるかどうかだけを審理判断すればよいのであつて仮処分によつて保全される権利の有無又はその効力の如何を審査すべきではないと共に仮処分債務者の実体上権利の有効無効又はその権利が被保全権利に対抗し得るものであるかどうかの点について審理判断をすべきものではないのである、従つて本件において原審が認めた前示(二)の特別事情の基本となつている被上告人と高木保昌との間の賃貸借が実体上有効であるか無効であるか又その権利が上告人に対抗できるものであるか否やの点についてはその判断を与える必要はないのである、然らば原審が被上告人の賃貸借が統制法規に違反する無効の契約であるとの上告人の主張に判断を与えることなく特別事情の認定をしたことは正当であつて論旨は理由がない。

よつて民訴第四〇一条第九五条第八九条により主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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